千綿偉功的日々 Hidenori Chiwata Official Website

 
千綿偉功的日々
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Chiwata's Diary
2006/12/31 19:54 <旅日記 7・一気に行くばいラストまで>

『6日目』

 10時前に目が覚める。天気悪し。今にも雨が降り出しそうだ。宿の軒先のイスに座り、新聞を読む。一日の始まり。今日は、せっかくだからやってみよう!と思う事が一つある。昨晩、宿のオーナーさんから聞いていた「シーサー作り」にトライしてみたい。シャワーを浴びて支度をしていたら「チワちゃん、送ってこうかー?」とオーナー。お言葉に甘え、シーサー作りの工房まで乗っけてってもらった。
 竹富島や波照間島でも古民家の瓦屋根の上には必ずシーサーが置かれていて、それらは表情や姿・形など一つ一つ全て違う。聞いたところによると、もともとは、大工(瓦職人)さんが余った赤瓦と漆喰を使ってその家の、そして大工さん自身の象徴となるような「守り神的オブジェ」をこしらえたいということから生まれたものだとか。だから、作るにあたって何の決まりも制限もない。最初に最低限の土台の作り方を教わってからは、ひたすら自分と対話する作業で、遠い昔にやった粘土細工を思い出した。いつ以来だろう、こんな感覚。孤独な時間が流れて行く。誰も「これが正解!」とは言ってくれないし、自分の頭の中に描けるものしか形には出来ない。自分の能力と向き合う瞬間だ。思っていても表現できないもどかしさ、歯がゆさ。理想と現実。なんとか自分に折り合いを付けながら『よしOK!』という線が引けた時には、作り始めて6時間が経っていた。乾かすのにそれなりの時間が必要なため、色塗りは明日にすることにして宿に戻る。1泊延長することを宿の人に伝えた。

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 今日はこのあと、嬉しいイベントが控えている。なんと今日は、例のミュージシャン友達の誕生日なのだ。仲間内で開かれる飲み会に僕もお呼ばれされていた。20時過ぎからぼちぼちと始まったその集い。10人ほどの誕生会だったが、その場に立ち会うことが出来てとても幸せな気持ちを分けてもらった。それぞれに年代の違う男達が何かの縁で繋がり、今ここに会していて、時には少年のように無邪気に、時には眉間にシワをよせながら真剣に真っ向からぶつかっている様が羨ましくもあった。生きてく上で、きっとこういう時間って必要なんだろうなぁ。もちろん僕にもそういう存在がいない訳ではないが、今の自分に、いや、これまでの自分に足りなかったことなのかも知れない。笑い声に包まれながら僕の心までほぐれて行く。
 地元でしか食べられない料理とお酒をたらふくいただいて、午前0時すぎにはバラける。それでも飲み足りず、コンビニでつまみを買って宿に戻り、食堂でヘッドライトを点けて泡盛を飲む。ベッドに潜り込んだのは5時を回っていた。

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『7日目』

 10時起床。遅くまで酒を飲んだ翌朝は無性に腹が減る。使い切れずに残していたゴーヤとスパム、沖縄そばを炒めてヤキソバでも作ろう!朝昼兼用だ。台所で一人調理していたら、2ヶ月この宿にいるというY君が現れる。『ソバが多すぎて一人じゃ食えないから良かったら食べない?』と聞くと、「ハァ、じゃあ・・・」と。小さいテーブルを挟み、男二人で食事をとった。さあ今日はシーサーの色塗りだ。シャワーを浴び、小雨の降る中、カッパを着て工房へ向かう。昼過ぎから色塗り開始。
 昨日の形作り同様に、これまた何の決まりもなく、どんな色を使うか、どの部分に塗るか、どれくらいの濃さにするかなど、すべては自分の感性に委ねられる。どうにでも出来るが答えはない。「自由」には背中合わせの両面があるんだね。塗り始めると色々とアイデアも出てきて、楽しくなってきた。画用紙に色を乗せる「写生」ではなく、こういう立体物に色付けをすることなんて、実はほとんど初めてに近いんじゃないかな?イメージではもう少し素朴な感じに仕上げるつもりだったが・・・。5時間かけて完成したのがこれ。

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まあ、こんなもんか。数日間乾かした後、梱包して送ってくれるそうだ。何とぞ、よろしくお願いします。
 さてさて。明日は東京へ帰る日だ。最後の夜、何を作ろうか。宿に泊まっている二人組の女の子に『一緒に晩メシでも作るか!』と提案したらノッてきた。『よし、じゃあイタメシにしよう!』ということで食材の買い出し。一人頭800円ほどで結構な量だ。宿に戻り下ごしらえ。まずは、“千綿特製トマトソース”作りからスタート。これがなきゃ始まらない。みじん切りのタマネギをひたすら炒め続ける。その途中、この後で使うオリーブオイルが足りないことに気付く。女の子に“炒め番”を任せ、再び買い出しに。スーパーやコンビニなど数軒を回る。それなりの時間が掛かってしまい慌てて宿へ帰ると、台所に立つ彼女の顔から笑みが消えていた。その瞬間、ピンときた。『もしかして、焦がしちゃった?』「だって、このままずっと炒めててって言ったから・・・ごめんね」と彼女。すごく申し訳なさそうだ。どうやら怒られると思ってたらしい。僕の指示も良くなかったし、帰るのが遅すぎたね。なってしまった事は仕方ない。『大丈夫!またやり直せばいいから』ということで振り出しに戻る。それから2時間は経っただろうか。完成した品は、鶏モモ肉の香草焼き、付け合わせの野菜グリル。それと、ナス・シメジ・ベーコンのトマトソースペンネだ。

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女の子たちも相当腹ペコだったようで、勢い良く料理に飛びついていた。昼メシを一緒に食べたY君にも声を掛ける。それでも食べ切れなさそうだったので、居間でくつろいでいた20代半ばの男の子と、同じく20代半ばの女の子も誘った。二人ともそれぞれ一人旅の途中だという。「晩ご飯は食べてきたので、じゃあ小皿一杯くらいで・・・」なんて言っていた青年D君。気が付けば「いや〜マジ美味いっすよ!」って、軽く5〜6杯はお替わりしてたなぁ。いいぞ、みんな!食え食え。みんなが美味しそうに食べてくれるのを見てると、こっちまで幸せな気分になるね。自分用に買ってきといた白ワインを開けているとみんなも飲むって言うんで、お裾分け。ついでに残っていた泡盛も。よーし!飲め飲め。10歳ほど年下の彼らと色んな話をさせてもらったが、「今を生きる」という上では年齢も地位も大した問題ではなく、根っこの部分ではビンビンに感じ合えるものがある。今まで自分だけが変なんじゃないかと思っていたような話題を振ると「あっ、それ私も分かります!」みたいな事が多々あったり、僕が知らなかった事を逆に教わったり、・・・。後片付けを終えてからも食堂に残った面々。その輪の中に宿のオーナーさんまで加わり、夢の話や歴史の話、はたまた宇宙の話まで、それぞれの考えや想いをぶつけ合う。楽しくて仕方ない。いつまででも語り合えそうな気がする。押し付けもせず、引き留めもせず、無理強いもせず。“最後の夜”が更けて行く。


『8日目』

 午前9時。シャキッとした朝の目覚め。いよいよ東京に帰る日だ。結局この数日は天気もあいにくだったなぁ。でも、お陰で素敵な出会いがあったし、西表島はまたの機会にとっておこう。そうそう、昨晩遅くまで語り合ったD君は、朝早くに波照間島へと旅立ったらしい。野宿はやめとけよー! さあ、荷物でもまとめるか。まだみんな寝てるので静かに出発準備をしているとオーナーさん登場。わざと聞こえるように「チ〜ワちゃ〜ん出発やでぇ〜」。その大きな声にとみんなが起きてくる。玄関先に集まってくれたみんなと記念写真。『じゃあ、旅楽しんでね!』と別れを告げ、オーナーさんに空港まで送ってもらう。「見送りに行くから空港で待ってて」と言っていた例のミュージシャン友達も遅れて到着。「これ使ってくれ!」と、彼が自分でデザインしたパーカーとトートバッグを手渡される。友達とオーナーさんに最後まで見送ってもらいながら、手荷物検査場を通り抜けた。二人が最後に掛けてくれた言葉の温かさが胸に沁みる。「行ってらっしゃい!」。なぜだろう、悲しくないのに涙が溢れてくる。心の中は“ありがとう”でいっぱいなのに。石垣発羽田行き、JTA074便は、沢山のお土産と想い出を抱えた人たちで満席だった。

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 心がずいぶんと軽くなった気がする。自分に出来る事から始めればいいさ。“やろう!”と思った事から一つずつ始めてみればいいさ。来年に向け、今はそんな気持ちが芽生えている。
 
 最後に。空港で友達がくれたバッグに描かれていた言葉を、君にもぜひ紹介したい。

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“ SLOWLY BUT SURELY ”

これからも、そうやって歩いて行けたらと思うんだ。


『おまけ』

 先日、無事に、シーサーが届いた。ウチの守り神として、留守番として、招き犬!?として、これからも「ムクシーサー」は玄関で笑い続けるであろう。これにて<旅日記>は完結。お付き合いいただき、どうもありがとう!

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